SWITCHインタビュー達人達(たち)▽鳥嶋和彦×加藤隆生~ヒットを生むコツ! - NHK
の再放送を見ました。
鳥嶋編集長が、ドラゴンボールZの主題歌を引用してましたがまさにその一言に尽きるかと。
鳥嶋和彦 - Wikipedia
編集者として多くの漫画家を発掘・育成しており、中でも鳥山明、桂正和の2人が当人達の成功もあり特に有名。彼等は様々な場面で鳥嶋を恩師と呼んでおり、鳥嶋が『Vジャンプ』を立ち上げた際に連載を行うなどと繋がりが深い。鳥山については『Dr.スランプ』と『ドラゴンボール』の編集を、桂については『ウイングマン』の編集や『電影少女』の発案に関わっていた。
SCRAP - Wikipedia
株式会社スクラップ(SCRAP Entertainment Inc.)は、リアル脱出ゲームを中心としたイベントの企画・運営などを行う日本の企業。本社は京都府京都市中京区にあるが、本社機能としては東京都渋谷区の東京オフィスである。「リアル脱出ゲーム」の登録商標を所有している。
代表者 加藤 隆生(代表取締役社長)
【編集者としての才能は「からっぽ」なひとがいい】
「パッと才能が来た時に握れるかどうか。手が空じゃないと握れない。自分に自負があったりすると握れないんですよ。」
編集者としての視点なんで漫画化の才能を読みきれるかどうか。自分なりのマンガ哲学や編集感が強すぎるほど素直な視点で見れなくなるのかもしれません。
鳥嶋氏は、新入社員の頃ジャンプ最新号のマンガを読んで順位をつけてと言われたそうです。しかしアンケートの結果は全く逆。ジャンプの新人編集はみないかに子供視点の目で漫画を見てないかに思い知らされると。
僕はこのエピソードを聞いてアインシュタインの言葉を思い出しました。
「常識とは、18歳までに身に付けた偏見のコレクションである。」
アルベルト・アインシュタイン - Wikiquote
【頭を「からっぽ」にするには?】
生きていく上で常識、偏見のコレクションは必要です。何の常識もなしに社会を渡り歩こうとすると、すべての行動を1から考えなおして相手に説明したり、それを相手に納得してもらためとんでもないコストがかかり、常識の世界で受け入れてもらえません。
でも、偏見のコレクションを沢山抱えるのは構わないと思うのです。僕の中では敵を許す、悪を受け入れ取り入れるとかで考えるのですが、そのとき偏見が一致しない矛盾したコレクションを抱えてそれをOKとする。あれもOKだし、これもOKで、その偏見の一段高い視点からまとめて圧縮したら、ひとつの偏見に囚われることはなく頭の空間が空くと思うんですね。
【頭を「からっぽ」にする方法?】
「黙ってあなたの話を聞いてくれる人を1人設定する」
番組で加藤氏が、「相談できる相手がいなくてほんとに困っている」と打ち明けるシーンがありました。リアル脱出ゲームをこの規模で続けて運営してる例は過去にない、前例がないので、いろんな問題が起こった時に誰にも相談できないと。
で、鳥嶋氏が総括的にアドバイスしたのがその言葉。
「人間ってしゃべるだけでずいぶん頭のなかが整理される。実は相談するってことはアドバイスなんか求めてない。聞いてもらえるだけで自分はこんなこと考えてたんだとか、こういうこともあるんだとかずいぶん楽になる。」
これはほんとにそう思います。ただ、これは人でなくても良いのかもしれません。
プログラムでは誰かにバグで困ってることを説明しきったら解決することがあるので、
ベアプログラミングという手法が在ります。テディベアに状況を説明するという方法です。
ベアプログラミングと告白デバック: あんどコンサ
これは、とある計算機センターのヘルプデスクに、テディベアのぬいぐるみが置いてあることに由来します。
どうしてもプログラムが上手く動かない。いったいどこが悪いのか、考えても考えても解決できない。……こんな時、一度煮詰まってしまった脳みそでは、それ以上いくら時間をかけても自分だけの力では解決できません。
でも、その悩みを他人に説明しようとした途端、自分自身の問題点に気づいてしまう場合がよくあります。言葉にする過程で、頭の中が整理されるんでしょうね。
整理して説明することが重要であって、相談相手は特に人間でなくてもかまいません。つまり、テディベアのぬいぐるみは、人間のスタッフに相談するまえに、まずクマ相手に相談しろというわけで置かれているのです。これだけで、トラブルのかなりの割合が解決してしまうわけですな。
同様の手法に「告白デバック」というのがあります。
読んで字のごとく。問題が発生したら、とにかく誰かに問題を告白します。大抵の場合は、相談相手が何も答える前に、自分の頭の中で問題は解決してしまうわけです。
どちらも、有名なプログラミングの教科書に載っている由緒正しい手法だったりします。テディベアの件は、かのカーニハンの「プログラミング作法」。告白デバックは、McConnellの「Code Complete」です。
僕の場合はこのブログがそれにあたるでしょうか。
よく、過剰に説明しすぎたり引用多すぎたり本論と外れるような長文記事を書いて、、まあそれらは反響もなくあまり読まれないのですが、それこそ相談してアドバイスが欲しいわけではないので、一旦自分の思考を全部出し切りたいという思いが強いです。一度出しきったらより熟成した次のアイディアや思考がでてきますから。
すでに偏見をもってしまった自分を本当の意味で頭をカラッポにする方法はわかりません。しかし、鳥嶋氏のアドバイスにもあるような「聞き上手な友人」でも「テディベア」でも「ブログ」でも匿名のメディアでもいいので、自分の思考を出しきることで頭のなかに少しカラッポな余裕が生まれると思います。
鳥嶋氏はもうひとつこういうアドバイスもしました。
【楽になるには責任転嫁したほうがいい】
「自分でもう、しょわない。」
まさに、自分で仕事を手放したらそのぶん頭空っぽにできますね。
もちろんこれは、加藤氏も代表として沢山の仕事を任せてるようですが、任せるなりの不安はつきまとうそうです。しかしそれでは結局その不安にさいなまされて頭空っぽにならない。
鳥嶋氏も有名なゲームプロデューサーに言われたそうですが、
【任せたらチェックしてはいけない】
「人はチェックされることを分かってたら仕事の手を抜く。」
これは結構ぐさりと来ました。
鳥嶋氏も1週間悩んだそうで加藤氏も困った顔をしていました。
でも、確かにそうですね。最終判断がチェック者にあるのなら修正されそうな尖ったことはしません。自分の作品ではないと思って無意識に力をセーブするかもしれないし、読者視点よりもチェック者視点を作品が丸くなるでしょう。
「見て見ぬふりをする」
「結果が出た後にコメントするのはいい。」
という、結果まで含めて責任を任せるのであれば、最終判断が自分にあるなら本気度が違ってくると思います。
とはいえ、現場からの叩き上げの人で部下に権限あずけて社運を任せるのは相当怖いでしょう。職業によっては眠ってる部下の能力を出してもらいたいわけじゃなく、安定して決まったことをやってくれたらいいということも多いです。
例えば少年ジャンプは連載20本前後でリスク分散しつつ、かつ結果(アンケート)が毎週出てくるというフィードバックの早さがあります。任せてからの結果と修正が早いからこそチェックしないでもいい体制が作れます。
この話は編集長としてなのか、編集者としてなのか、いつからどこまで自覚的なのか考えると面白いです。
なにせ鳥嶋氏はボツ連発するような鬼編集者。二人三脚で漫画を作ってチェックしていく編集者として漫画家に任せっきりにはしないはず。
番組内のエピソードでも、鳥山明の「Dr.スランプ」案はアラレちゃんが第1話で消える予定でした。主役はDr.スランプのせんべえさんで、その発明品のひとつに過ぎないということですね。少年誌で女の子を主人公にするのが嫌だったそうで。でも、鳥嶋氏はアラレを話の中心に置くべきだと、短編で賭けをして女性主人公の人気があったから鳥嶋氏の案でDr.スランプは発進したそうです。鳥山明に任せっきりだと今のアラレちゃんは誕生してない。
しかし、ワンピースは
ONE PIECE - Wikipedia
「成功も失敗も自分の実力次第という考えで、担当や読者からのアイデアは基本的に受け付けていない」
とあるように担当編集者は作品に手を加えてはいないもよう。だからこそ、あれだけの大長編群像劇を担当編集者が変わっても方針変更されないまま続けられるのかもしれません。
ジャンプ編集者の仕事は、アシスタントや仕事場の確保、飯とか健康状態に気を配ったり、ゲーム化、アニメ化などの調整まで担当編集者の仕事らしく確かに相当な権限を任せています。漫画家とどこまで一緒にやっていくのかというのは、それこそ担当者や漫画家ごとに距離感が違ってて決まったルールはないのでしょう。
だた、鳥嶋氏自身の心境の変化がどの時期からの話で、作家に対して編集者として対応が変わったのか?なども深堀りして聞いて欲しかった所です。
【悟空が成長することに大反対だった】
Dr.スランプの例では、「少年誌で女の子を(主人公に?)描きたくない」という頭が凝り固まってたのは鳥山明のほうでしたが、ドラゴンボールでは「今の悟空は戦闘のたびに(不自然に)大きくして描いている。だけど筋肉をちゃんと描かないと戦闘のビジュアルとして自分の満足の行く画面にならない。だから悟空(の頭身)を大きくしたい。」という意見に鳥嶋氏は大反対だったそうです。いわく、
「少年漫画の鉄則ではキャラクターをいかに(読者へ)売り込むか。連載開始依頼人気が下がり続けたドラゴンボールをせっかくジャンプNo1まで育てたのにそのビジュアルを捨てないといけない。」
かなり不安だったそうですが、この手の変更で必ず来る子供からの抗議電話はこのとき一切なく、ドラゴンボールは悟空の成長も受け入れられさらなるヒットとなります。少年漫画の鉄則で頭が埋まってたのは鳥嶋氏の方でした。
「1回人気が出たからといって、放おっておくと落ちていく。常に工夫しながら新しいものを入れていかないと続かない」
この辺の経験も、ジャンプが常に新しい血を入れ続ける方針へと繋がってそうです。
【先輩の言うことは聞かなくていい】
「先輩に従うと先輩のコピーになる。ちゃんとした基本は早めに覚えてほしいけど先輩に合わせないでね。」
「先輩の仕事や誰かのマンガを見てちゃダメ。研究してもいいけどマネちゃダメ。」
これは意外でした。ジャンプ編集部には、ジャンプ編集部なりのノウハウがあると思ってたからです。それこそインフレ天下一武道会システムみたいないろんなマンガ連載テクニックが。
むしろ担当者ごとにマンガを作っていく過程すらフルスクラッチなんですね。せっかく頭が空っぽな編集者にこれまでのやり方や常識をつめ込まない。自分達で1から夢をつめこむような常に手探り状態。
ノウハウを継承しないというのは効率が悪く、そうそう新人作家が大ヒットしてくれるわけもないのですが、ひとりひとりが1からもがいてるなら時代の変化には強いでしょう。それに教えてもらったことより作品を自ら研究する人たちのほうが本質を学べそうです。ジャンプがベテランを使うより新人発掘を重視するのも頭空っぽな新人作家とからっぽな新人編集者の方が時代に合わせた夢を描けるのだと考えてるのかもしれません。
【ジャンプがダメになったのは新人の新連載がないからだ】
ドラゴンボール、SLAM DUNK、幽遊白書など、大ヒット作が軒並み終了して部数が落ち込み、マガジンに抜かれる前後の話です。Vジャンプを起ちあげ少年ジャンプから離れてた鳥嶋氏は再び少年ジャンプ編集部へ呼び戻されました。
「同じ作家が違う連載を描いていくとタイトルは変わっていても中身が変わらない。子供にそれがバレてた。」
それであちこち謝って前編集長の企画を終了させ、編集部員に
「君たちが作らないと連載ないよ。だから頑張ってね。」
と無茶ぶりした模様。
しかし新人の新連載がなかなかヒットすることはなく、集英社の会議で
「しばらく100万部ぐらい落ちるかもしれません」
との報告。
しかし凄いのはここから粘って、「ONE PIECE」の芽が出てきたこと。そしてNARUTOやHUNTERXHUNTER、ヒカルの碁が続く。
ここはさらっと流してましたが、部数の落ち込みが止まらず、結果が出てないときに現場の担当者や新人作家に任せて信頼しきった、というのは凄いことだと思います。普通は加藤氏のようにそれを不安に悩んだり、自分自身で企画を進めそうなところ。
ここに「運良くヒット作に恵まれた」では片付かない、現場の力を引き出す仕掛けが番組のインタビューに散りばめられていると思います。「頭空っぽのほうが夢詰め込める」いやほんと神回でした。
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